令和7年度 全特協の活動方針
中央教育審議会初等中等教育分科会は「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」文部科学大臣より諮問されたことを受け、「質の高い教師の確保特別部会」を設立し議論を進めてきた。令和6年8月に出された答申においては、通常の学級に在籍しながら一部の時間で障害に応じた特別な指導を実施する通級による指導が必要な児童生徒への支援について、対象となる児童生徒数が年々増加していることや、そのことによる教員の負担の増加も踏まえつつ、状況に応じたきめ細かい支援の充実の在り方についても今後検討する必要があることが示された。そして、同年12月25日の諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」では、子供たちを取り巻くこれからの社会の状況や現 在の学校現場の状況を踏まえ、顕在化している課題の一点目として「主体的に学びに向かうことができていない子供の存在」に触れ、多様性を包摂し、可能性を開花させる教育の実現が喫緊の課題であるとされた。今後の特別支援教育に関する主な審議事項としては、「多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方」において、各学校が編成する一つの教育課程では対応が難しい子供を包摂するシステムの構築に向けた教育課程上の特例等の在り方、「各教科等やその目標・内容の在り方」においては特別支援学級や通級指導に係る特別の教育課程、自立活動の充実等を含む、障害のある子供の教育的ニーズに応じた特別支援教育の在り方に関する議論が重ねられることとなる。
上記のような流れのなか、各学校においては、全国的に特別支援学級在籍者数と通級指導教室利用者数の増加が続いており、特別支援教育の充実は重要課題の一つとなっている。また、特別支援学級や通級支援教室設置校の校長においては、特別支援学級や通級指導を担当する教員の資質・能力の向上を図ると同時に、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する支援の充実が強く求められている。本協会としては、国が推進する特別支援教育の理念や方針を踏まえ、各校における特別支援学級と通級指導教室のさらなる発展、充実を図りたい。
以下、 本年度の活動方針を記す。
1 基本方針
- 共生社会の形成に向け、インクルーシブ教育システムの構築とさらなる充実を目指し、特別支援教育の推進・発展を図る。特に、特別支援学級や通級指導教室での指導の充実を図る。
- 通常の学級に在籍する行動面又は生活面に困難さを抱える児童生徒に対しての、校内における支援体制の強化を図るとともに、全ての教員における特別支援教育の専門性向上を目指す。
- 研究・研修活動等の充実を図り、校長の特別支援教育に係る専門性を高める。
- 全国の特別支援学級及び通級指導教室の状況を把握するための調査研究を行う。
- 幼稚園・保育所・子ども園、高等学校との連携を強化し、生涯を見通した特別支援教育を推進する。
- 国及び都道府県の関係機関との連携を深め、共通する課題の解決を目指す。
2 具体的な活動
- 本協会から各関係機関への提言を作成し、特別支援学級や通級指導教室を設置する学校における特別支援教育の推進を図る方針を明確にする。
- 研究・ 研修協議会、副会長会、役員・常任理事会等の活動内容の充実を図る。
① 各県並びに各ブロック研究協議会への協力を行う。
② 研究・研修協議会を原則、対面開催で実施する。
ア 第1回全国理事研究・研修協議会(定期総会) 6月5日(木) アジュー ル竹芝
イ 第62回全国研究協議会(第2回全国理事研究・研修協議会含む) 広島大会 8月21日(木)・22日(金)広島国際会議場
ウ 関東甲信越地区研究協議会 山梨大会 11月14日(金) ふじさんホール・富士吉田市民会館
エ 第3回全国理事研究・ 研修協議会(京都府) 1月30日(金) 京都テルサ
全国副会長研修会 第1回:6月4日、第2回:8月21日、第3回:1月30日
③ 諸事業の円滑な執行のため、役員・常任理事会を年8回開催する。 - 特別支援教育の内容及び方法の改善・充実を図るための諸事業を行う。
① 実践事例等を出版する。出版に関する内容は、全国副会長研修会にて協議する。
② 関連資料等に関する情報の共有を目的に、本会ホームページの充実を図る。 - 小・中・義務教育学校の特別支援教育の現状と課題に向けた調査研究を実施し、全国理事研究・ 研修協議会で報告するとともに、各都道府県に周知を図る。また、文部科学省への提言資料とする。調査研究では、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の協力を得て実施する。
- 文部科学省、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の施策や諸事業への協力、各都道府県や政令指定都市等の教育委員会の特別支援教育に係る施策と連携する。
- 全国連合小学校長会、全日本中学校長会、全国国公立幼稚園・こども園長会、全国高等学校長会、全国特別支援学校長会、全国特別支援教育推進連盟、全日本特別支援教育研究連盟、全国手をつなぐ育成会連合会などの関係団体との連携を深める。
① 全日本特別支援教育研究連盟全国大会 10月23日(木)・24日(金) 北海道
② 全国特別支援教育振興協議会 12月12日(金) 国立オリンピック記念青少年総合センター
3 提言
提言1 【社会や地域に向けて】
障害のある人の自立と社会参加を目指し、地域の一員として一人一人が豊かに暮らせる社会を実現する
障害のある人もない人も互いに支え合い、尊重し合う「共生社会」の実現を目指し、学校においては、全ての子供一人一人の力を伸ばすとともに、多様性を理解し様々な人々が共存しながら豊かに暮らしていくための社会を形成する子供の育成を推進します。
- 多様な人々が共に暮らせる住みやすい町づくりの推進
- 障害者理解教育を推進するための活動の拡大
- 障害者自身の意思を大切にした社会づくりの推進
- 障害者差別解消法に基づく基礎的環境整備や合理的配慮の充実
- 生涯を通じた支援を行うための個別の支援計画の作成・活用の周知及び充実
- コミュニティ・スクールにおける取組等、地域とともにある特別支援教育の推進
提言2 【行政機関に向けて】
障害のある子供に対する質の高い教育を目指し、特別支援学級や通級による指導の体制整備を図るとともに、 関係機関と運携した特別支援教育制度の一層の充実を図る
インクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえた教育が学校で行われ、 障害のある子供もない子供も共に学び成長していくとともに、関係する機関が連携を深め、地域において生涯を見通した支援がより充実することを推進します。
- 幼稚園・保育所、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校等との円滑な移行の促進
- 家庭・教育・福祉の連携「トライアングルプロジェクト」による関係機関との連携促進
- 特別支援学級における学級編成基準見直しの実現及び通級による指導の基礎定数化を受けた計画的な教員配置、さらなる充実
- 特別支援学級や通級による指導の場の障害特性に応じた施設設備の充実
- 特別支援教育の専門性を身に付けた管理職の育成
- 特別支援教育に関わる教員の育成及び体系的・系統的な教員研修の実施
- 障害者権利条約を踏まえた柔軟な就学相談を実施し、保護者を支援するための相談体制の充実
- 特別支援学級や通級による指導担当教員の特別支援学校教諭免許状保有率向上に対する支援の充実
- 特別支援教育コーディネータ一を担う教員の負担軽減の実現
提言3 【校長に向けて】
共生社会を目指したインクルーシブ教育システム構築を推進し、学校の特別支援教育体制を充実させる
障害のある子供の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、子供一人一人の教育的ニーズを把握し、そのもてる力を高め、生活や学習上の困難を改善・ 克服するために多様な学びの場を充実させるとともに、指導や支援の充実を推進します。
- 全ての教職員が特別支援学級等の担任として複数年経験が積める人事配置の確実な実施
- 特別支援学級並びに通級指導教室への専門性を有する人事配置の推進
- 特別支援学級や通級指導教室担当教員の専門性向上のための特別支援学校教諭免許状保持率の向上への働きかけ
- 配慮が必要な児童生徒に対する校内支援体制整備の充実
- 学校における合理的配慮の提供に関する取組の推進
- 互いが貢献し合い、多様性を尊重するための障害者理解教育の推進
- 特別支援学級や通級指導教室の教育課程の充実及び理解啓発の推進
- 特別支援教育コーディネータ一の育成及び位置付け
- 切れ目ない支援体制を継続するための学校間の円滑な移行支援の強化
- 特別支援学校のセンター的機能を生かした相互連携の推進
提言4 【教職員に向けて】
障害に対する教職員の専門性を向上させ、子供の可能性を最大限に伸ばす教育を行うとともに、互いを理解し成長し合う学校づくりを行う
障害のある子供も積極的に学習活動に参加し、障害の有無に関わらず、一人一人が豊かに成長できる学校づくりを推進します。
- 関係機関と連携した個別の教育支援計画や実態に応じた個別の指導計画の作成と活用の充実
- 特別支援学級や通級による指導における各障害種に応じた指導内容・方法の充実
- 全ての児童生徒にとってわかりやすい授業づくりの推進
- 障害のある児童生徒と障害のない児童生徒の交流及び共同学習の一層の充実
- 学校間の指導の連続性に関する取組の推進
- 特別な支援を必要とする児童生徒の進路指導及びキャリア教育の推進
- 学校と福祉機関や医療機関、民間施設との連携の推進
- 地域や保護者との連携の強化